一日の執務の終わりに行うのは魔力供給である。夕食の前に、フェルディナンドのエスコートで供給の間に入り、二人で魔力供給をした。床から手を離したローゼマインは、フェルディナンドに手を差し伸べられながら問われた。
「今日の君は、ずいぶんと突き放した言い方が多かったな」
「そうですか?」
フェルディナンドの手を取り、立ち上がったローゼマインは首を傾げながら答えた。
「自覚がないわけではあるまい。それほどに気分を害することでもあったのか?」
フェルディナンドはローゼマインの手を離すことなく続けて問いかけた。少し俯きながら、ローゼマインは小さな声で答えた。
「……てください」
「何だ?」
「ぎゅーしてください」
少しむくれた様に唇を尖らせながら強請るローゼマインに、自然と唇が弧を描こうとするのを抑えながら一歩足を進める。
手を離し、腕の中にローゼマインを収めると、背中に手を回し、胸に頬を擦り付けるようにしてローゼマインは息を吐いた。
「隠し部屋に入るのを邪魔されたのが、そんなに気に入らなかったのか?」
「わたくしにはぎゅーが必要なんです。なのにあの二人はうるさいのですよ」
ローゼマインの零す愚痴を聞きながら、フェルディナンドは艶のあるローゼマインの髪を撫でる。
自分にしか甘えることが出来ないローゼマインを、嬉しく思いながら抱きしめる。
「婚約者がいるから二人で隠し部屋に入ってはいけないなら、婚約者になったのだから問題ないじゃないですか。それなのに、なんなんですか。うっとおしい」
「君が成長していない時に使っていた言い訳と、つじつまが合わなくなったのだな。必要なのは外へ漏れないようにするだけだというのに、あの二人の態度では触れ回っているに等しいな」
「いつまで経ってもやるべきこともやらずに邪魔するだけなら、いらないじゃないですか」
「これからはそうはいかないだろう。女神の化身の兄として、それはそれは厳しい目でみられるだろう」
自分の背中をぽんぽんと優しく叩くフェルディナンドの楽しげに伝えられた声に、ローゼマインは顔を上げた。
「フェルディナンド様もムカついてました?」
「あれは、自身の都合で『主』と『妹』を使い分けていた。兄として言えば、君を動かせると思っていたようだな。それは、君に仕える他の者たちにとっては侮辱に等しいのではないか?」
「それを許していたわたくしにも問題があったということでしょうか」
「洗礼式までのつかの間しか家にいなかったのに、君の兄として振舞えるほうが私には不思議だがな。しかし、いまさら庇ってやる必要はない。自ら役立たずを証明したのだからな」
フェルディナンドは楽しげにローゼマインの髪を指に絡めて、口付けた。
「お父様から学んでいないのでしょうか?」
「君の護衛になったとしても、自分が騎士団長という役職になるとは思っていなかったのだろう。君が礎を奪った瞬間から、すでに己の進むべき道が決まったことにも気がつかないのは不甲斐ないを通り越して間抜けとしかいえぬが」
「それも、そうですね」
「しかし、ハルトムートが早々に城内を掌握したのは僥倖だったな」
「フェルディナンド様が洗脳してもいいなんていうから、クラリッサと張り切っちゃったじゃないですか」
頬を膨らませて抗議するするローゼマインを見下ろしながら言う。
「その後が楽であろう?」
「……否定できないのがとても困ります」
ローゼマインが苦笑いをしながら答えを返すと、フェルディナンドは面白そうに付け加える。
「アウブの兄弟家として、他領からの婚姻の受け皿となってもらわねばならぬからな。エックハルトが使えぬ以上、あれらはエーレンフェストへは戻せぬ」
「はあ、エックハルトにも困りますね」
「血を見るよりはよかろう」
「そうですね」
「ハルトムートとコルネリウスしか上級の器がないのが残念だが、選択を絞れるというのは良しとするべきだろうな」
フェルディナンドの言葉に、ローゼマインはため息を吐いて言う。
「そう考えると、わたくしもフェルディナンド様も側近に恵まれておりませんね」
「仕方がない。私たちがおかれた立場と生きるうえで優先したものは、普通の貴族では理解できぬであろうからな」
「そうですね。これから使える手足を増やせばいいことですし」
「ハルトムートが上手く洗脳してくれたからな、使い勝手のいい文官は多い。シュトラールを騎士団長に置いたことで、騎士たちにも不安はないであろう」
フェルディナンドの台詞にローゼマインはさすが魔王と心の中で思いつつ、浮かび上がった己の考えに笑った。
「どうした?」
「いえ、フェルディナンド様が三人いたら、何も悩まなくて済むなぁと」
「三人の私に何をやらせるのだ?」
ローゼマインの突飛な言葉に、好奇心を刺激されてフェルディナンドは聞いた。
「一人目はお城でわたくしの補佐兼文官の管理で、二人目は騎士団長でしょ。三人目は神殿で神官長をしていただけたら、何一つ憂いはありません」
「君はそれだけの仕事を私に望むのか?」
「三人いたらの話ですよ。一人のフェルディナンド様にして貰うことではありません。あ、訂正します。四人目が必要です」
「四人目は何をするんだ?」
フェルディナンドの質問に、ローゼマインは顔を上げにっこりと答えた。
「わたくしの専属ぎゅー係です」
「却下だ」
「何故ですか!」
「……君のぎゅー係は私だけでよかろう」
そう言いながら、ローゼマインの後頭部に手を当て、自身の胸へと再び引きこんだ。フェルディナンドの台詞に、嬉しそうに笑いながらフェルディナンドの背中に回した腕にぎゅっと力を入れた。
ローゼマインを抱きしめながら、フェルディナンドはそっと言う。
「私が四人いたら、君へのお小言も四倍だぞ」
「一人で結構です!!」
フェルディナンドの台詞に、ローゼマインは慌てて訂正した。
「今日の君は、ずいぶんと突き放した言い方が多かったな」
「そうですか?」
フェルディナンドの手を取り、立ち上がったローゼマインは首を傾げながら答えた。
「自覚がないわけではあるまい。それほどに気分を害することでもあったのか?」
フェルディナンドはローゼマインの手を離すことなく続けて問いかけた。少し俯きながら、ローゼマインは小さな声で答えた。
「……てください」
「何だ?」
「ぎゅーしてください」
少しむくれた様に唇を尖らせながら強請るローゼマインに、自然と唇が弧を描こうとするのを抑えながら一歩足を進める。
手を離し、腕の中にローゼマインを収めると、背中に手を回し、胸に頬を擦り付けるようにしてローゼマインは息を吐いた。
「隠し部屋に入るのを邪魔されたのが、そんなに気に入らなかったのか?」
「わたくしにはぎゅーが必要なんです。なのにあの二人はうるさいのですよ」
ローゼマインの零す愚痴を聞きながら、フェルディナンドは艶のあるローゼマインの髪を撫でる。
自分にしか甘えることが出来ないローゼマインを、嬉しく思いながら抱きしめる。
「婚約者がいるから二人で隠し部屋に入ってはいけないなら、婚約者になったのだから問題ないじゃないですか。それなのに、なんなんですか。うっとおしい」
「君が成長していない時に使っていた言い訳と、つじつまが合わなくなったのだな。必要なのは外へ漏れないようにするだけだというのに、あの二人の態度では触れ回っているに等しいな」
「いつまで経ってもやるべきこともやらずに邪魔するだけなら、いらないじゃないですか」
「これからはそうはいかないだろう。女神の化身の兄として、それはそれは厳しい目でみられるだろう」
自分の背中をぽんぽんと優しく叩くフェルディナンドの楽しげに伝えられた声に、ローゼマインは顔を上げた。
「フェルディナンド様もムカついてました?」
「あれは、自身の都合で『主』と『妹』を使い分けていた。兄として言えば、君を動かせると思っていたようだな。それは、君に仕える他の者たちにとっては侮辱に等しいのではないか?」
「それを許していたわたくしにも問題があったということでしょうか」
「洗礼式までのつかの間しか家にいなかったのに、君の兄として振舞えるほうが私には不思議だがな。しかし、いまさら庇ってやる必要はない。自ら役立たずを証明したのだからな」
フェルディナンドは楽しげにローゼマインの髪を指に絡めて、口付けた。
「お父様から学んでいないのでしょうか?」
「君の護衛になったとしても、自分が騎士団長という役職になるとは思っていなかったのだろう。君が礎を奪った瞬間から、すでに己の進むべき道が決まったことにも気がつかないのは不甲斐ないを通り越して間抜けとしかいえぬが」
「それも、そうですね」
「しかし、ハルトムートが早々に城内を掌握したのは僥倖だったな」
「フェルディナンド様が洗脳してもいいなんていうから、クラリッサと張り切っちゃったじゃないですか」
頬を膨らませて抗議するするローゼマインを見下ろしながら言う。
「その後が楽であろう?」
「……否定できないのがとても困ります」
ローゼマインが苦笑いをしながら答えを返すと、フェルディナンドは面白そうに付け加える。
「アウブの兄弟家として、他領からの婚姻の受け皿となってもらわねばならぬからな。エックハルトが使えぬ以上、あれらはエーレンフェストへは戻せぬ」
「はあ、エックハルトにも困りますね」
「血を見るよりはよかろう」
「そうですね」
「ハルトムートとコルネリウスしか上級の器がないのが残念だが、選択を絞れるというのは良しとするべきだろうな」
フェルディナンドの言葉に、ローゼマインはため息を吐いて言う。
「そう考えると、わたくしもフェルディナンド様も側近に恵まれておりませんね」
「仕方がない。私たちがおかれた立場と生きるうえで優先したものは、普通の貴族では理解できぬであろうからな」
「そうですね。これから使える手足を増やせばいいことですし」
「ハルトムートが上手く洗脳してくれたからな、使い勝手のいい文官は多い。シュトラールを騎士団長に置いたことで、騎士たちにも不安はないであろう」
フェルディナンドの台詞にローゼマインはさすが魔王と心の中で思いつつ、浮かび上がった己の考えに笑った。
「どうした?」
「いえ、フェルディナンド様が三人いたら、何も悩まなくて済むなぁと」
「三人の私に何をやらせるのだ?」
ローゼマインの突飛な言葉に、好奇心を刺激されてフェルディナンドは聞いた。
「一人目はお城でわたくしの補佐兼文官の管理で、二人目は騎士団長でしょ。三人目は神殿で神官長をしていただけたら、何一つ憂いはありません」
「君はそれだけの仕事を私に望むのか?」
「三人いたらの話ですよ。一人のフェルディナンド様にして貰うことではありません。あ、訂正します。四人目が必要です」
「四人目は何をするんだ?」
フェルディナンドの質問に、ローゼマインは顔を上げにっこりと答えた。
「わたくしの専属ぎゅー係です」
「却下だ」
「何故ですか!」
「……君のぎゅー係は私だけでよかろう」
そう言いながら、ローゼマインの後頭部に手を当て、自身の胸へと再び引きこんだ。フェルディナンドの台詞に、嬉しそうに笑いながらフェルディナンドの背中に回した腕にぎゅっと力を入れた。
ローゼマインを抱きしめながら、フェルディナンドはそっと言う。
「私が四人いたら、君へのお小言も四倍だぞ」
「一人で結構です!!」
フェルディナンドの台詞に、ローゼマインは慌てて訂正した。
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